菊池信之さん

sabaku_m2008-01-16

菊池信之さんは、1968年より小川プロダクションに所属。制作助手などを経験したのち82年より録音担当となり、小川紳介監督『ニッポン国古屋敷村(82)、『1000年刻みの日時計 牧野村物語』(87)等の作品を手掛けました。
フリーとなって以後は、佐藤真監督『阿賀に生きる(92)、井土紀州監督『百年の絶唱(98)、青山真治監督『路地へ 中上健次の残したフィルム』(00)ユリイカ(00)、諏訪敦彦監督『H story』(03)など多くの作品で録音/整音/効果を担当。
近作に、加藤治代監督『チーズとうじ虫(07)、萩生田宏治監督『神童』(07)、青山真治監督『SAD VAKACION』(07)、奥原浩志監督『16[jyu-roku]』(07)などがあります。

昨日、「菊池さんの発案で、通常のような映像を見ながらスタジオで録音するようなアフレコではありませんでした。」と書きましたが、それは、こんな具合でした。

まず、映画の現場となったビルの別のフロアに、演劇の稽古場のようなスペースを作りました。
そして、現場の様子を記録したビデオをアフレコをする俳優たちに見てもらって、現場の時の気持ちを思い出してもらい、その後、実際に同じような芝居をしてもらい、それを助手さんたちが竿を振って録音したのです。

これは、スタジオの中で、吊り下げられたマイクにむかって映像と声を合わせていく従来のアフレコとは、まったくちがう経験でした。

現場と同じビル、に、アフレコをする場所を作ったというところが、ポイントです。

「…音にも色んな相関関係の中で成り立っていると思うわけ。そうすると役者がある場所で芝居をするということは、そこのノイズを身に纏うことでもあるから、フィルム上の現実が一度あって、もう一度、台詞という現実を再現する時、全くちがうノイズの中でやったら別なものになるだろうと。」
「…だから、馬喰横山の駅に降り、その建物の中で芝居をするほうがより近いものになるし、役者もまた撮影時の現実を再現するのが楽なはずだと考えたわけです」(「映画芸術」より)

この菊池さんのインタビューの全文は、今月末に発売される「映画芸術」に掲載されます。

しかし、撮影が終わった後が、菊池さんにとっては本番だったのかもしれません。役者の声だけではありません。映画の包んでいるすべての音を菊池さんは、設計し、構築していったのですから。そのシーンに吹いている風の音、扇風機の音、蝉の声から、爪を切る音まですべてを菊池さんたち録音部が組み上げたのです。

菊池さんは、いわゆる「効果音」というものを使いません。
「だって、効果音には経験がないから」
その場所の、そのシーンの経験を持つ音…。録音部は、砂の影の映画の中で鳴っている音すべてを、今回の撮影現場で録りおろしたのです。

スチールは録音部のみなさん。向かって左から豊島さん、黄さん、菊池さんです。